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2009/11/17 00:30 |
久しぶりの手合わせ |
「は…っ、はぁ…っ」
早朝5時、風花堂の庭では日課のジョギングを済ませたソーマが荒い息を整えていた。
11月ともなれば早朝の空気は冷えたもので、冷え込むときは吐く息を白くさせるときもある。
その冷たい空気がソーマの身体覆い、汗が蒸気となって身を取り巻いている。
今年から通っている道場で学んだ瞑想と呼吸法で心身へと新鮮な空気を取り込んでいく。
大きく息を吸い込んで、腹の一番奥で止める。
そして溜めた息を気とともに一気に押し出す。
打ち出された蹴りは大きく弧を描いて舞い散る紅葉を蹴り上げた。
どれだけの時間続けられるのだろうか、留まる事を知らぬようにソーマは舞う。
その手が止まったのは、「カサリ」と音が聞こえたから。
「おはよう。ごめん、邪魔してしまったかな?」
眼鏡の奥の銀色の瞳を細めると、世良はまだ眠いとばかりに小さな欠伸を零した。
「おはよ、ハティさん。ううん、そろそろ体力の限界だったから」
助かったわ、と笑みを漏らすと木にかけられたタオルに手を伸ばし、
縁側に腰を下ろした。
その隣に世良も腰を下ろす。
まだまだ二人とも登校には早く、落ち着いた空気を辺りが取り巻いている。
(こんなのんびりした朝もいいよな…)
感慨深げに安堵の息を漏らした世良の横で
ふと、ソーマが口を開いた。
「そういえば、ハティさんに手合わせしてもらったことないわよね」
「………は?」
「……学校行くまで、まだ時間あるわよね?」
「え、でもソーマ、私はベルが居るし、それだと2対1で」
「それでも構わないけれど。むしろそのくらいのほうが遣り甲斐もあるし」
「いや、でもそれはっ」
嬉しそうに立ち上がるソーマとは裏腹に、冷や汗にまみれつつの世良。
口での勝負の勝敗は、明らかに決していた。
「じゃあルールは、こんな感じで」
ソーマは指折り数えつつ、世良へとルールを説明する。
世良:ケットシーのベルさんを封印。
防具制限解除。
ソーマ:黒燐蟲使いのアビを禁止。
共通:装備可能防具は、術式防具以外。
世に言う、タイマンガチ(ちょっと違うが)、だろうか。
魔法対肉弾、どっちが強いか、戦いの幕は切って落とされた。
「ソーマに向かって、魔弾撃てるかな…。痛かったらごめん;;」
秀麗な瞳を顰めつつ、世良は魔方陣を展開する。
「痛いのは大歓迎。私も多分、蹴っちゃうしね?」
ごめんね、と心の中で呟くとソーマは大地を蹴り飛翔した。
「……っ」
その瞬間、声にならない悲鳴が空気を引き裂いた。
宙へ舞う行為は、1対1では危険を伴う、相手が遠距離攻撃を主とするならなおさらだ。
待ち構えたように放たれた炎に巻かれ、ソーマは攻撃に転ずることも出来ず地へ墜ちる。
「ご…っ、ごめ…っ」
身体から煙を立ち上らせるソーマに駆け寄りそうになって、世良は動きを止めた。
「優しくしないで。こういう時は、思い切りやりあってこそ、でしょ?」
頬に、額に、腕に肩に、イグニッションしても露出の多い肌のあちこちに焼け焦げをつけたまま、それでも笑う。
嗚呼、本当に。
強くなりたいんだな。
――私と、一緒で。
世良は、微かに口角を上げる。
恐らく今地に伏しているのが自分でも、同じ事を言うだろう。
たまたま先手を打てたのが自分だったから、思わず罪悪感を抱いてしまった。
けれどそれは、一緒に強くなりたいという思いを、無にしてしまうことなのかも知れない。
大切な、友人だからこそ。
微かに微笑んだ世良の手から生まれたのは先ほどより一際大きな魔方陣。
「……この一撃が凌げるかが、鍵ね」
ソーマは呟くと、まだ軋む身体を奮い立たせた。
「…行くぞっ」
世良の声とともに先ほどより遥かに大きな炎の塊がソーマに襲い掛かった。
ソーマを中心に火柱が巻き上がる。
「あ…っ」
やりすぎたか、とそれでも思ってしまった世良の唇から言葉が粒となってこぼれる。
その音が地面へと落ちる前に「大丈夫」という声が聞こえた気がした。
見れば煙の中に、腕を顔の前でクロスさせるような姿で立つソーマがいた。
「行くわよ、ハティさん」
身体に煙を纏わせたまま、ソーマは駆け出した。
左へ右へ、軽やかにエアシューズを滑らせ世良を翻弄する。
接近してくるソーマに詰め寄られ、世良にはもう後がなく。
魔方陣から炎を繰り出す余裕もなくしてしまった。
「くっ」
思わず漏らした呻きに反応するように、ソーマの動きが止まった。
「やばい」
「え?」
ソーマの気の抜けたような声に視線を上げると、青い瞳は自分ではなく背後の一点を見つめていることに気づく。
その先には、主の窮地を救わんと今まさに踊りに誘おうとするベルの姿があった。
「そりゃね、ハティさんが危なくなったら助けたいと思っちゃうわよね?」
ソーマはくすくすと笑いつつベルの頭を撫でる。
「ごめん、まさかベルが出てくるとは思わなくて;;」
ルールを作ろうがどうしようが、イグニッションすれば傍らにはベルが居るわけで。
思えば、其処まで我慢して待っていただけでも十分主の想いを理解していたのだろう。
「ねぇベルさん、今度は私が味方を連れてくるから、一緒に手合わせしてね?」
「そうだな、誰か一緒に戦えば楽しいかもしれないな」
世良も楽しげに微笑み、それに呼応するかのようにベルは尻尾につけられた鈴を一際大きく鳴らした。
<背後>
お久しぶりで、世良さんにご出演いただきましたー。
バトルシーンまだまだです…
イメージは某タカノリの「魔弾」だったわけですが、PVのシーン描写するのって難しい。
ともあれ、世良さんと背後さんはありがとうございました。
気に入っていただければ幸いですー。
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