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2009/07/25 23:57 |
寂しい |
馨から昨日電話があった。
「ぁのねぇ。アスカと一緒に住むことにしたょぉ」
少しはにかみながら伝えてくる声は、受話器越しでもとても幸せそうで。
家を出るあの時に、彼に伝えておいて、よかったと思った。
寂しがりの馨、アスカさんと幸せに。
「なぁなぁ、そーま」
後ろで一本に縛った髪を「ぐんっ」と引っ張られる感覚。
またか。
「何?サトシくん」
「あれ、なんでオレってわかったの?」
振り返るとにーっと笑いながら見上げる少年が居る。
彼の名はサトシくん。
私が今春から通っている道場の生徒で小学生。私より前から通っているのでセンパイにあたる、らしい。
最初はシェンナさんに懐いてたと思うの、ね。
髪引っ張るのも、背中に馬乗りになったりするのも、標的はあちらだったのに。
それが、何故今…背中に乗られているのか…!(既に馬乗りになられている)
「そーまはガイジンなのになんでココにいんの?」
背中の上から声が飛んでくる。
「さぁね?気がついたら此処にいたし、わからないのよ」
四つんばいになって道場の端を歩きつつ応えると、「はぁ?」とびっくりしたような声が返ってきた。
「なんでっ、おとーさんとかおかーさんとかいねーの?」
「いない。というか、知らない」
「じゃーそーまってご飯とか自分でつくんの?そーじとかセンタクは?」
矢継ぎ早に繰り出される質問に、そんなに驚くほどの事なのか、と驚き、
一般人の小学生に話すべき事ではなかったかと反省する。
足を止め、彼を下ろすとその隣に自分も座る。
「私は、ずっと1人で生活してきたの。掃除や洗濯も自分でするし、食事もそう。」
「1人でって寂しくないのか?」
彼の瞳は大きく見開かれたままで、この興味の対象が適当に話を流して逃げることは許してくれないだろう。
「寂しいって言うのは、思った事がないわね。でも、そういう気持ちになることも、これからはあるのかも」
道場の反対側で子供たちと話しているセンパイ――シェンナさんへと目をやる。
彼と知り合った結社、そこに集う人たちに会ってなかったら、
そういう感情が在ることすら、知らなかったかも知れない。
サトシくんの質問にも「寂しいって何?」などと聞いてしまっていたことだろう。
そんな時、つくづく今までの自分が物知らずだったと思う。
組織に居て、戦うに不要な感情は取り払う薬を注入され、言葉を失い、笑うことも知らなかった。
成長して、作戦に使える程度の笑顔、返答の仕方は教えられたけれど、
それは教育されただけで心から溢れるものではなかったと思う。
嬉しいと思って笑うことも、悔しいと泣くことも、大切だと人を想う事も、この一年で知ったこと。
そして、誰かが傷つくと、誰かが悲しむということも。
「そーま!そーまってば!」
ぐいっと髪を引っ張られる。どうやら考え込んでいて彼の声を聞いていなかったようだ。
「あ、ごめん。何?」
「だから、オレが一緒にいてやるって言ってんの!」
「……は?」
「そーまが寂しいときは、オレが一緒にいてやるよ!だって泣いてたらかわいそーじゃん」
にへーっと笑う。
何がどうしてそういう結論が出るのかさっぱり分からない。
目を白黒させるとはこういうことなのかと思わず思ってしまった。
「あの、えー・・・」
「だから!さびしーときは言えよっ!」
叫ぶように言い放つと赤い顔をして彼は走っていく。
その姿を見つめて一言つぶやく。
「だから、寂しいって知らないってば」
私がその気持ちを感じるのは、きっともっとずっと先のこと。
いや…あるのか、な。
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