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Moon Child

PBWシルバーレイン内に生息中、暴走弾丸娘ソーマ・アビルーパの戯言保存場所です。 シルバーレインという名前や、PBWという言葉に心当たりのない方、ソーマのお知り合いでない方はお戻り頂いた方が身のためかと。
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2024/04/27
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2010/07/04
13:53
それぞれの(其処まで【3】)


『彼』の一言によって、ソーマの動きは止まった。
確かに、自分が皆を護りたいと思って取っている行動は、『人で在ろうとすること』を否定している行為なのかも知れない。
思いが鎌首をもたげ、相手の命を奪うことにだけ特化していた思考に割り込んだ。

最終話。
非常に長いです。
詠んで頂けます方はお覚悟および、ご注意を。



瞳に意識が戻ったのを確認すると、
「ソーユーのホンマツテントウって言うんじゃねぇの?アンタは仲間を護りたい。それは自分の気持ち…っつーかワガママ?んーと、要は感情、だよな。でも、それを完遂するためには、感情を意識の奥底にしまって戦わなきゃいけない。――おかしくねぇ?」
喋りながら、2対の獣爪を繋ぐ長い鎖を、ソーマに向かって投げつけた。
一瞬の隙を突かれたソーマは、あっさり鎖に絡め取られる。細い鎖はソーマの体に食い込み、細い肢体に赤く痕を刻んでいった。
「でも、私が皆を護るためには――」
今の力じゃ勝てないと思ったから。鎖から逃れようと、足掻きつつ吐き出した言葉は遮られた。
「ンな弱くて、ホントに護れてんの?」
暫く学園に居てわかったケド、俺らみたいに特殊じゃなくても、強いヤツなんていくらでも居るダロ?
『彼』の言葉は嘘ではない。ソーマは二の句が次げなくなる。

自分が学園に来たとき、周りに居る人達は自分よりずっとずっと高い場所に居て。
力だけでなく、心も強い人達。
任務を遂行するために、感情の起伏を抑えることを教えられ、標的を欺くための演技でしか喜怒哀楽を表さぬようにと教育されてきたソーマには、
全てが、信じられないものだった。
普段は楽しそうに、のんびり――特に訓練も、手術も投薬も受けていない彼らが、有事には誰よりも強くなる。
しかし、それは決して感情を無くして戦うわけではなく、単に戦闘を楽しむわけでもなく。
傷を受け倒れていく仲間たちの事を護り、気遣い――。
毎日のように教室に舞い込んでくる依頼をこなしているのも、『楽しいから』でもなく、『任務だから』でもない。
強い想いを遺したあまり、その場に留まってしまった意識を救うため、心を捕らわれてしまった獣たちを解放するため。
そんな不条理に侵されて行く『世界』を護るため。
ソーマは、今までの自分の生活は何だったのだろう。と、いつも考えていた。
標的は生きている人間。組織と呼んでいた『企業』が多額の報酬を受け取ることで、依頼者にとって『不要な』人間を葬り去っていく。
その標的が、普段はどんな生活をしていて、どんな思いで生きているのかなんて、知るわけもない。
感情、思考の制御を受け、たとえ一緒に任務を遂行しているメンバーであっても、傷つき戦うことが出来なくなれば捨てる。
以前相棒だった馨を逃がしてからは、体に発信機を埋め込まれ、何処にいても組織の監視下にあった。
外に出る事を許されるのは、任務を請けた時だけ。
あの生活――と表現していいのかも判らないが――は、何だったのだろう。
「もう動かねぇの?」
じゃらり、と鎖を引き寄せソーマに近接すると、『彼』は問いかける。先ほどまでの殺気がすっかり失せたソーマなら、五分以上に戦えるかも知れない。もう少し挑発して動揺させようと、獣爪でソーマの頬に紅い線を引く。
「貴方は、この学園に来て、今までの自分は何だったのだろう。と、考えたことはない?」
けれどソーマから返されたのは動揺に満ち溢れた返答ではなく、自分をしっかりと見据えた上での質問で。
その言葉は、学園に来てからのソーマの苦しみは、きっと『彼』にも訪れたはず。そう確信したことをあらわしていた。
「―――。」
言葉を失った『彼』を見て取ると、ソーマは僅かに苦笑する。
「そう、よね」
同じよね、思うことは……。だって、同じ場所に居たんだもの。
ソーマが胸に抱いていた、自らの過去に対する批判、己の存在意義への問いかけ。此処に在っていいのだろうかという不安。
それはきっと、同じ組織で生きてきた『彼』にも襲い掛かっただろう。
銀誓館の人達は、自分たちにはあまりにも眩しすぎる。
闇に囚われ、血に染まった自分たちの掌は、此処に相応しくないのではないか。
きっと、そう思っただろう。
「私ね。此処に来てから、考えたことがあるわ」
鎖と首の隙間に手を差し込み気道を確保すると、ソーマは息を吸い込む。
「組織に居た人達は、どんな人達だったんだろう。って」
構成員以外にも、指示を出す人間、教育担当、薬物担当、医者、小さな子供たちの面倒を見る人も居たかもしれない。
馨を傷つけられた怒りに任せて壊滅させた自分の住処に居た人たち、彼らの命を奪ったことはどれだけ大きな罪なのだろう。
任務の中で命を奪った人たちは勿論のこと、今まで手にかけてきた全ての命が圧し掛かってくる。
気づいていなかった事だとしても、それは赦されることではなく。
「どんなに輝いていた命だったかも、判らない。その命を奪いそして、貴方のように任務中の人たちが帰る場所も消し去ってしまった」
知らぬうちに負った罪の重さは、気づいた時には耐えられる重さではなくて。
自らの命を絶てば、赦されるのだろうか。それとも、それだけじゃ、足りないのだろうか。
判らないまま時が過ぎていく中で、知り合った仲間たちと自分との違いをまざまざと見せつけられた。
柔らかなベッドに身を横たえても、今までの生活の所為で落ち着かない。仕方なく、床に転がって身体を休めたこともある。
楽しげに笑う人たちの姿を見ても、何故笑っているのかが判らない。誰かが幸せそうに笑っている、それが何故嬉しいのか。
ソーマにとって嬉しいことは、今日も命を永らえたと実感する時だけ。標的の命を奪った、その瞬間だけだった。
一緒に任務をこなしているメンバーの事を気遣う事も、ともに命を永らえた事を悦ぶ事もなかった。
組織の中で唯一話をしたのは、中学まで外で育ったと言っていた馨だけで。
一緒の部屋に入れられてから、此処に居る人たちは普通じゃない、此処はおかしい。と、ずっと言っていた。
その言葉の意味が漸く判った自分を、それでも救い上げようとしてくれた人が居る。
見当違いにも思える自分の話に耳を傾け、何度も根気良く話をしてくれて、命を投げ出すことが強さじゃないこと、誰かを、何かを大切に思うこと、誰かが笑っただけで、ただそれだけの事が酷く嬉しかったりすること。
少しずつ、土に水が染み込むように、ソーマの中に浸透していった。
「弱いから戦わない。なんて事、ないのよ。大切な人が危険だったら、自分の手で救いたい」
たとえ手を伸ばしても届かない場所だとしても、それでも手を伸ばしたい。自分が愛してやまない人たちを――失いたくない。
「貴方は、学園に来て、誰かに出会った?」
「――会った。ぶっきらぼうで、喋り方もキツイヤツで、俺はアンタを見つけるためにソイツの近くに居ただけなのに、いつの間にか――」
調子が狂わされた。
いつも帽子を目深にかぶり、目線を下に落として喋る癖がある。ソイツは、何かと声をかけてきた。いや――『かけてくれた』のだ。
組織で教えられて来た、『中学生らしい喋り方』に沿って話している自分に、淡々と返事を返しつつ、自分を見定めていたのだろうか。
学園に仇なすモノかどうか――いや、そんなことはないだろう。些細な軽口に対抗心を燃やしたり、真剣に自分と対峙しようとしている姿からは、
疑っているような気配など、感じられなかった。
「いつの間にか、入り込んでくるのよ、ね」
組織に居た時だって、同じくらいの年だろうと思われる存在は沢山居たのに、こんな接し方をしてくる相手は居なかった。
どうして、こちらに手を差し伸べるのだろう。己の目的を悟られぬように警戒し距離を置こうとする自分を、輪の中に引き込む、いくつもの掌。
でもそれは、決して心地悪いものではなかった。
音もなくソーマを拘束していた鎖が消えうせた。
イグニッションを解いた『彼』と、同じく発動を解いたソーマは改めて向かい合う。
「――私が居場所を奪ってしまったのよ、ね。それは、しちゃいけなかったことなのかも知れないけれど…」
「アンタをさ、憎んでたハズなんだけどなぁ」
『彼』は、長い髪の後ろに手を回すと頭を抱えるようにして空を見上げた。
「初めてアンタを見つけた時、どーしようもなく腹が立ったんだよな。
俺たちの家も、任務も奪ったヤツが、何で楽しそうにヘラヘラ笑ってるんだよって。
あんなに楽しそうにしてるのは許せない。だから、罪の意識に苛まれて死なせてやろうって思ってた。でも」
ソレドコロじゃねぇ位、判ってたんだな、アンタ。
「……」
「俺が言いたかったことよりずっと、いろんなもの背負ってる。バカじゃねぇの?そんなに考え込んで。
それでも、傍に居たかったヤツでも居たのかよ?」
「……そうね、傍に……居たかった」
誰と言うわけでもなく、あの場所に、居たかった。学園の屋上から見える空、一緒に見上げた人たちを思い出すと、微かな笑顔が浮かんだ。


「なぁ、外して傷跡残ったから、ソレ嵌めてんの?」
額につけたビンディを指差す。その場所には発信機が取り付けられていた筈だ。
「うん…無理に外したから、ね。――貴方は?」
「俺はずっと額に布巻いてる。発信機はついたままだし、見えるからな」
「此の学園に……居る気はないの?」
外さないままの発信機、外す痛みを恐れているわけではないだろう。
自分と同じ気持ちなら、きっと此処に居たいと思う筈。なのに何故…ソーマは問いかける。
「んー……正直さ」
対峙したソーマから視線をはずすと、頭を抱えていた腕を胸の前で組みなおす。
「アンタをもっと放っておく予定だったんだよ。もっともっと、フヌケになってから殺してやろうって思ってた。ケドさ、急がなくちゃいけない理由が出来た」
翡翠の瞳が少し細められ、もう一度ソーマを見た。
「ココにいたら、離れたくなくなんだろーなぁって、思ったんだよ。……アンタみたいにな」
ソーマを追いかけて紛れ込んだ学園では、今まで任務遂行のために忍び込んだ施設などとは全く違う衝撃の連続で。今までの自分を否定するような出来事が連続して起きる中で考え込むこともあり。
ソーマと直接言葉で交わしたわけでは無かったが、彼女も同じ体験、想いをしたのであろうことが伺えた。
だからこそ、さっきの言葉が出たのだろう。『ずっと居る気はないの?』と。
ココに居る事が赦されるのなら、離れたくない。――けれど、そう思うことが怖かった。
もし、任務から戻ると組織が壊滅していたように、ある日突然学園が無くなってしまったら――?
――自分は、どうなってしまうのだろう。
「だから、早く離れなくちゃいけないって思った。そのためには……アンタを殺せばいいんだって、思った」
アンタを殺して、ココから消えればこんな想い、捨てることが出来るって思ったんだ。
少し掠れたその声は、『彼』も思い悩んだ末に決断した事を物語っていた。
恐らくは、もう誰かを殺めたりはしたくなかったのだろう。けれど、それを認める事は、今までの自分を全て否定することになる。
自分で自分を否定したら、その先にはもう何もない。
学園に居続ける事は今までの自分を否定すること。それを受け入れ、昇華する事は出来なくて。
ソーマを殺し、学園を出ることで、自分を肯定し狂気のまま生きるしかないと思った。
「さっき貴方が話してくれた人は、貴方が居なくなったら寂しがらないの?」
「あー…ソレはねぇんじゃねぇの?周りにトモダチも沢山居るし、俺が居ても居なくても変わらねぇっつーか」
「……本当にそう思う?」
その姿にかつての自分を思い出す。自分なんて何時死んでも構わない、たかがそれだけの存在だ。そう思っていた自分をあの時叱ってくれた人が居たから、今此処に居られる。
「代わりなんて居ないのよ。ほかに友達が沢山居たって、貴方の場所に立てる人は居ない。
貴方も私も、此処で出会った人たちに必ず影響を及ぼしている。貴方の代わりは誰も出来ないし、貴方じゃなきゃ出来ないことも沢山ある。
貴方は在るべくして其処に在るって、考えて」
ソーマは自らを戒めるように言い放つ。
「私は私に関わった人に、不幸になって欲しく無い。例え、一時の感情だとしても、傍に居られて良かったと、思って欲しい」
――出来るかは、わからないけれどね。
思ってはいても口に出さない言葉を声に出したのが照れくさかったのか、おどけたように言葉を添えると、
また照れくさそうな笑顔を浮かべる。
翡翠の瞳の少年は、思い出す。
(この顔が憎かったんだよな、俺。……今は何も感じねぇや。)


別れる寸前、照らす夕日にも負けないほどの紅い髪の少年は呟いた。
「そういやさ、瓦礫の下から探し出したナケナシの資料で判ったんだケド」
アンタの本名さ、「愛」なんとかっつーらしいぜ。
「……愛?」
「似合わねぇよな」
「え、それどういう意味…!」
 

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